国境の南、太陽の西RMX 4840108358 メディアファクトリー
■Amazonエディターレビュー 村上春樹トリビュート小説集と題し、若手作家が、往年の名作を自由な発想で再執筆したシリーズである。本書は、その第1期として刊行された4作品のうちの1冊。1992年の村上の同名小説をもとに、『一緒にいたい人』や『愛の病』などの、恋愛をテーマにした作品を得意とする狗飼恭子が、独自の解釈で仕上げた中編小説だ。 村上版???????¢????????????????????\????は、主人公が親しかった女性との記憶を中心にして、幼いころの思い出をたどる物語であった。一方、本書の語り手である耕太は、それとはまったく別の世界で生きる別の人物だ。このふたつの物語をつなぐのが、足の不自由な少女、島本さんの存在である。村上版で主人公の心に棲み続けていた小学校の同級生は、本書では耕太の初恋の相手なのだ。本来なら謎とされたままだった中学時代の彼女の姿が、別の作家である狗飼の筆によってつづられる。その新たな人物像は、村上ファンの読者に不思議な感覚を与えるだろう。また、彼女の口から「自分の左足のような男の子」、すなわち村上版の主人公の話が語られるなど、ふたつの小説が交差する部分は、トリビュート小説ならではの演出だ。 思い出を回想する形をとり、若かりし日々との決別を描いた村上のオリジナル作品と同じく、これもまた甘酸っぱい過去との別れの物語である。決してパロディーではない、もうひとつの「国境の南、太陽の西」として興味深い1作となっている。(砂塚洋美) |